謎の手紙



 その日は、空を見上げれば、雲一つない、とても天気の良い日であった。

  「まあ、よくいらっしゃいました!」
 この館の主人である女性は、とてもしとやかに、そしてとても嬉しそうに言った。
  「この度は突然失礼します。先日頂いた手紙のことが少々気になりまして、、、。それにしても立派なお屋敷ですね。」
 突然の客人は、目の前の館を見て言った。
  「お褒めに預かり光栄ですわ。手紙、読んで下さいましたのね。それでわざわざ、、、。
   まあ、こんな所では何ですので、どうぞ中へ。」
   女主人は、玄関に立っている客人を館の中へと促した。

  「ほう。」
 客人は中に入ると、所々に飾られている、見るからに高級そうな装飾品を見て、声を漏らした。

  「突然お伺いして済みません。」
 改めて客人が女主人に突然の訪問についてお詫びをする。
 すると女主人は、
  「全然構いませんわ。ご都合の宜しい時にいらして下さい、と書いたのはこちらですもの。」
 と、明るく答えた。

 踏み心地の良い赤いカーペットの上をしばらく歩いた後、二人の前に大きな扉が一つ現れた。
  「こちらですわ、どうぞお入りになって。」
 女主人はそう言うと、目の前の重々しそうな扉を開けた。
  「これは、また。」
 部屋の中は廊下にあったものより、更に高価そうな置物が所狭しと並べられていた。

 女主人は手前にある、これもまた簡単には手に入らないようなソファに客人を座らせ、そして自分も向かい側のソファに座った。
 そして、部屋の奥に向かって、
  「ジョルジュ。」
 と、言った。
 すると、いつからいたのか、部屋の奥から30代前半くらいに見える、穏やかそうな、しかししっかりとした顔つきをした、体格の良い青年が出てきた。

 青年は客人に挨拶した後、二人に「どうぞ」と紅茶の入ったカップを差し出す。
  「ありがとうございます。」
 と、客人は青年からカップを受け取った。
 女主人もまた同様にして、青年からカップを受け取る。
 受け取ったカップから漏れ出る、何とも甘く、それでいて華やかな香りが二人の脳を刺激した。

  「これはおいしい。」
 カップを口へと運んだ客人は、そのあまりのおいしさに、思わず感嘆の声を漏らした。
 すると青年はとても嬉しそうに、30代にしてはにこやかで、とても可愛げな笑顔を客人に向けた。

 すると女主人が思い出したかのように、青年の方を向き、そして微笑んで言った。
  「ジョルジュ、今日は探偵さんがいらしたのだから、とびきり豪華なお食事をお願いね。
  それから、お部屋のお掃除も念入りにね。」
 女主人の命を受け、ジョルジュと呼ばれた男は「はい、かしこまりました。」と言い、一礼をして部屋を出て行こうとした。
 しかし、その後ろ姿に女主人は、再び声をかけた。
  「あ、そうそう、ジョルジュ、応接間の暖炉の薪が少なくなっていたから、新しいのを用意しておいてね。
  それから、お庭の草もさっき見たら、少々のびていたみたいよ。
  あと、午後から雨が降るようなので、庭に置いてあるベリーヌ(車の名前)はガレージに入れておいて頂戴。
  それから、、、。」
 その他にも、色々用事を言いつける女主人に、ジョルジュは「はい、ただいま」と深々と頭を下げた。
 その後、二人に背を向けたジョルジュが、苦虫を噛みつぶしたような顔で溜息を付いたことは、そこに居た二人には気付かれないはずだった。
 しかし探偵と呼ばれた客人は、紅茶の赤い表面に映った彼の様子を面白そうに見ながら、カップを口へと運んだ。

  「こんな大きなお屋敷に、彼と二人暮らしですか。」
 ジョルジュが出て行った後、探偵と呼ばれた男は女主人に尋ねた。
  「あら、さすが探偵さん。二人暮らしということがよく分かりましたね。」
 女主人は探偵に向かって微笑むと、ふっと立ち上がり、側にあった棚から一枚の封筒を取り出した。
  「ほう、それが例の手紙ですか。」
 探偵は取り出された封筒をまじまじと見る。
 女主人は「いかにも」という顔をして、封筒を探偵の前に置いた。
  「それでは早速読まさせて頂きます。」
 探偵は女主人にそう言うと、目の前の封筒を手に取った。





      終わり




  (例によって続きません)





  さあ、戻りましょう〜




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