ペットは最後まで責任を持たないと、後が面倒!

   ある日の午後

  「あ〜、たりぃ…。」

  ここは万事屋銀ちゃんの2階。銀時は眠そうな声を出して、いつものように依頼の来ない玄関の方を見てつぶやいた。

  「ジャンプも読み飽きちまったしなぁ。」
  「ちょっと銀さん、そんなところにいたら、掃除の邪魔ですよ。」

  こちらは今時冴えない眼鏡ッ子というのをウリにした新八君。
  どうやら、自分の家でもないのに律儀に掃除をしているらしい。

  「まったく、こんな調子じゃぁ、僕の今月の給料も期待できませんね。」

  新八はまだ一度も貰ったことのない給料の話をして、銀時の様子を伺ったものの、またしても眠そうにあくびをしている銀時には、もう払う意思もないと思われる。

  「まあ、そういうなって。そのうちどっかの金持ちから大口契約が来て、酢昆布がどんっとまとめ買い出来るほど支払ってやるからよぉ。」
  「酢昆布って…。そんなもの大量に貰って喜ぶのは、神楽ちゃんぐらいしか…。」

  と、言いかけて、ふと新八は、辺りに神楽がいないことを思い出す。今日は朝から神楽を見ていない。
  ここに住んでいる神楽をみていないということは、どこかに出かけているのであろうか。

  「ところで銀さん、神楽ちゃんは?」
  「あ?あー、あいつなら、暇だからとか言って、定春と一緒に散歩に行ったぞ。」
  「へぇ、定春と。いったいどこに行ったんでしょうね。」

  新八は神楽の行きそうな場所を思いめぐらせてみるが、突拍子のない思考と身体能力を持つ神楽の行きそうな所を思いつくことはなかった。


  と、そのとき…。


  「もう帰ってるアルよ〜。」

  と、突然間の抜けた声が押入から聞こえてきたので、二人は驚いた。

   なんと、神楽はいったん外に出たものの、とっくに帰ってきて、押入で寝ていたらしい。
  まるで、某漫画の某青いロボットと同じようなシチュエーションである。
  違うところと言えば、こちらは女、道具が出せない、向こうが青に対してオレンジ系といったところであろうか。

  「おい、おまえ、いつ帰ってきたんだ。」

   銀時がまるでびっくり透明人間でも見たかのような面持で神楽に聞く。
  だが、当の本人はそんなこともおかまいなしに、こちらもいつのまに着替えたのか、また寝間着姿の髪を下ろした状態で、

  「ついさっきヨ〜。銀ちゃん間抜け面して寝てたから、私ももう一度ねてたネ。」

  と、自分も寝起きで間抜け面になっているのだが、それも棚にあげてぼーっと言う神楽であった。

  「おいおい、おまえ、それで定春はどうしたんだー?」

  神楽の存在だけを確認し、それでいて一緒に出て行ったはずの定春の姿が見えないことに疑問を抱いた銀時は神楽に尋ねた。

  「定春なら、公園アル。なんかどっかのメス犬といちゃいちゃしだして、呼んでも聞かないから、置いてきたアルよ〜。」
  「こらー!ちゃんと連れて帰ってきなさい!」

  神楽の行動にあっけにとられる間もなく、銀時は叫んだ。

  「神楽ちゃん、それはちょっとどうかと…。」

  新八もつられてため息をつく。

   ところで、銀時と神楽は一緒に暮らして何年?も立つが、こんな寝巻き姿などさらして何事も起きないのだろうか?

  「悲しいオトコのサガネ。銀ちゃんも美人に寄ってくことあるアル。あきらめるヨロシ。」

   こんなことを普通に話している時点で、何もないんだろうなぁ。

  「いや、そうじゃなくて、あんなでっけー犬をそこら辺に放置してたら、街中で何か言われるつーの!」

  銀時は声を大きくしながら、会話を成り立たせようとした。が。

  「だいじょぶアル。定春私に似てかしこい、とびきり上等なメス犬捕まえてくるアルよ!」
  「だからそーじゃねーって!っていうか、これ以上扶養家族はいりません!面倒見切れません!」

  話を余計にズらしていく神楽であった。

  「あぁ、もうラチがあかないじゃないですか!
   とりあえず、定春探しに行きましょう。どーせここでこうしていても、今日もお客なんて来ないだろうし。」
  「あ!新八くん?今さりげなくひどいこと言った。」

  止めに入った新八にも絡むほど、今日の万事屋はよほど暇らしい。

  「…。ま、ここでこうしていても退屈なだけだしな。そんじゃ、定春探しに行きますか。」
  「きっとまだカワイイメス犬追っかけてるアルヨ!まったくこれだからオトコってもんは。見つけたらトッチメテやるアル!」
  「あれ…、神楽ちゃん、定春を肯定しるんだか否定してるんだか、どっち…。」


   かくして、万事屋の犬(定春)探しが始まったのであった。




  『ペットは最後まで責任を持たないと、後が面倒!』


   こうして、かぶき町を歩きだした銀時一行。
  さて、向かった先は、先ほど神楽が定春と一緒に来たという公園。

  「で、おい、神楽さん…?このとんでもなくひっろぉい公園のどこに定春を置いてきたんだ…。」
  「まるで公園というよりは、ジャングルですね…。」

   ようやく公園にたどり着き、一歩中に入った銀時と新八は愕然とした。

   ここはとある「自然を大事にしよう」と活動をしている団体が、「都会にもっと自然を!」をテーマに新しく作り上げた公園である。
  しかしその広さは、テーマがテーマなだけに、普通に「森」と言ってもよいくらいの場所となっていた。
  唯一人の手が加えられているところは、所々に置いてあるベンチのみ。

  「この間大きな公園をツクってるって聞いて、定春と一緒に遊ぶツモリだったネ。
   だけど定春、ここからチョット行ったところでメス犬見つけて、おっかけってったアルヨ。これだからオトコってどうしようもないネ。」
  「じゃあ、そこから定春がどこに行ったかはわからないんだね?」
  「うん。」

  新八の問いにうなずく神楽。

   それにしてもこの広い公園(?)を一体どう探せばいいのか。
  それはもちろん歩いて探すしかなく、銀時一行はとりあえず歩きだした。

  「おーい!定春―!」
  「定春―。どこいったアルかー?」
  「定春―。出ておいでー。」

   それぞれ定春の名前を呼びながら、歩く三人。

   しかし、一行に定春が出てくる気配はない。
  更に、さっき居た場所から随分歩いたはずであるのに、さっきから同じ景色ばっかりで何も変わり映えしないことに、三人は多少疲れていた。

  「おーい、ここほんとに公園かよー。つーか、これただの森だろー?!
   さっきからちっとも遊具とかないんですけどー。噴水とかどこですか、コノヤロー。」

  あからさまに苛立ち始める銀時。

  「仕方ないですよ銀さん、僕も新しい公園を作っていることは聞いていましたが、この公園は「都会にもっと自然を」をテーマで作られたらしいので。
   でも、ここもう完成していたんですね。」

  とりあえず苛立つ銀時をなだめる新八。

  「冗談じゃねぇよぉ〜。都会はなんで都会って言うと思ってんの?緑が少なくてビルばっか建ってるから都会っていうんだよ?
   それをなんで都会にそぐわないことしてくれてんの、ここ作った人。」
  「いや、銀さん、その言い分明らかに変です…。」

   こんな会話をしていたうちは、まだ疲れも序の口であった。

  しかし、「定春」と呼び続けて、かれこれ2時間もこの森(公園)の中をさまよい続け、しかもまだ出口が見つからないということに、ついに三人はキレた。

  「なんなんだぁー!この森はぁー?!なんで彼此2時間歩き続けて、さっきから同じ景色ばっかなんですか!」
  「いーかげんダせヤ、コノヤロー!」
  「っていうか、もうこれ公園じゃないよね?!ただの「もり」だよね?!」
  「新八、なに分かりきったこと言ってるアルカ!そんなの言わなくても、もうみんなわかってるネ!これだから「ダメガネ」なんて言われるアルヨ!」
  「ってなに?!神楽ちゃん!今そこはかとなくひどかったよね!」
  「っていうか、もう定春ここにいないんじゃないんですか?!
   そうだー、もうきっといない!いないことにして他行きましょー!」
  「でも銀さん、結局ここから出られませんよ?!」
  「うぉぉぉぉぉ!!!!」
  「あ!神楽ちゃん、出られないからって、森林伐採っていうか、森林破壊はダメだよ!」
  「あぁ!もう!!!責任者出てこーーーい!!!」


  「はいはい。」


  「ん???」


   定春が見つからない及び、森から出られないことにブチ切れていた三人。
  そこでどうしようもなく責任者を呼ぶという行為に走った銀時は、まさか本当にそこに人が現れるとは予想もしていなかった。
  というか、誰も予想できなかった。何しろ2時間歩き続けて、誰ともすれ違っていないのだから…。

  「…。アンタ、責任者?」

  なんとも間の抜けた質問だったが、銀時はそう聞かずにはいられなかった。
  歳は見た目六十くらいの老人は、どこかのほほんとした、なんとも穏やかな顔が特徴の老人であった。

  「いかにも、わしがこのハイブリット・エンジェル・カミング・フォレストの責任者及び、建築者じゃ。」

  「はいぶりっと・エンジェル・かみんぐ・ふぉれすと…。」

  いきなり出てきて責任者と名乗る老人が口走った言葉に、新八がすかさず反応する。

  「この公園の名前じゃ。」

  「なげーよ!!!」
  「っていうか、ここ「公園」なの?!今「フォレスト(森)」って言ったよね?!」
  「っていうか、おまえホントに意味分かって名前つけたのカ?!」

  「ほっほ、そんなものちゃんとわかっとる。「はいぶりっとで天使が来るような、森のような公園」という意味じゃ。」

  神楽の問いかけに、満面の笑みを浮かべて答える老人。
  しかし、その穏やかさも、今まで苛ついていた三人にはむしろ逆効果。

  「なんだよ!はいぶりっとが訳されてねーじゃねーか!」
  「それに「ような」って何?!「ような」って言葉ありました?っていうかもう「公園」なんて言葉なかったですよね?!」
  「銀ちゃん、また変なのでてきたアル!」

  まぁ、とりあえず、おちついてもらわないと話が進まないので、ここは強制的に三人を落ち着かせることにする。

  「とにかく、じーさん。なんでこんなひっろぉい、ハタ迷惑な公園作ったの。」
  「もうネーミングはどーでもいいです。」
  「そのうちこんななっがい名前みんな略すアルヨ。ブリ森とかブリ男とか。」
  「神楽ちゃん、それじゃあ、もう公園だかなんだか分からないよ。」

  「ほっほ。知りたいかのぉ?」

  顔を見合わせる三人。

  もう足も疲れたし、とりあえず話しだけでも聞いてみるかと、側にあったベンチに腰かけ、老人の話に耳を傾けたのであった。




   しかし、それがこれから起こるとてつもなく恐ろしいことの幕開けになるとも知らないで…。





   それは…。





   とにかく「老人」の話というのは長いのである。
  その原理は未だよくわかっていないのだが、とりあえず「老人」の話は長いように出来ている。
  これを読んでいる人も一度は校長先生の話の長さにため息をついたことがあるであろう。
  また、道端でうっかり近所に住むお年寄りと出会い、そのまま話そうものなら、気が付いたときには2,3時間平気で経っていたということを体験した人もいるかもしれない。
  しかし、それがお年寄りというものであり、その話を聞くことによって、色々得られることがあるのも否めない。つまり、お年寄りは大切にしよう。

   と、そんな話はさておき、この老人も例外ではなく話しが長かった。

   やれ、「この公園を作ろうと思ったのは…。

  うちの愛犬がの…。

  ビーグルのメスなんじゃが…。

  これがまた可愛くての…。

  いつも…。

  寝るときも…。

  だきしめて…。

  そばに…。

  そこが…。

  つれなくての…。

  耳が…。

  この間…。

  雨じゃの…。

  森は…。

  林は…。

  木は…。

  花は…。

  草は…。

  お腹に良くての…。

  目を離すと…。

  気が付いたら…。


  おっと、もうこんな時間じゃの。」


   と、やっと老人が話し終えたときには、辺りは真っ暗。
  朧月など出ていて、この辺りの木々たちが桜であったら、それはもう、えもいわれぬ光景となったであろうものなのだが…。



  (このろうじん…。)



   結局、神楽は銀時にもたれかかってぐーすか寝ており、銀時はベンチでグデングデンになりながらも、一応目は開けいたが、話の方はさっぱりといった感じ。
  唯一ちゃんと起きて話を聞いていた新八も、顔はやつれ、もういいです…。と吐きそうな気分であったが、なんとかベンチに座っているといった状態であった。

    そんな様子を尻目に、老人はさぞかしスッキリした面持ちで、

  「いやぁ、こんなに話をしたのは何日ぶりかの。」

  という始末、。

  (なん「日」なのかよ…。)

    これは、もうどこでも同じことをくっちゃべっているな、と察した銀時と新八は、話の最中に一生懸命考えないようにしていたことに結局たどりつくことを認めたくはなかったが…。
  ・・・認めるしかなかった。


  ((やっぱり聞かなくていー話だった。))


  「さて、もう遅いし、帰るとするかの。」

  と、どっこらせと腰をあげたじーさん。

  「え?!でも「帰る」って、どこから。」

  その様子を見て、真っ先に叫んだのが新八。

  「なんじゃおまえさんがた、帰り道も知らんのか?」

  不思議そうに聞くじーさん。

  「冗談じゃねぇよー。もうこんな疲れてるのに、元来た道を2時間もかかって帰ってられるかよー。」

  ベンチでグデングデンになっていた銀時は更にグデングデンになって、もたれかかっていた神楽の頭をかきむしった。

  「何するアルかー!!!」

  すかさず神楽のとび蹴りが銀時の脳天に炸裂する。

  「いやいや、そんなことしなくても、ほれ、こっちじゃ。」

  と老人は言ったかと思うと、今まで歩いていた道の小脇に入り、木々が茂っているところに消えていった。

  「おい、じーさん!」

  銀時たちは、いきなり姿が見えなくなった老人を追い、茂みの中に入っていった。

   そして、そこから百メートルも歩かないうちに、銀時たちの目の前に広がったのは、いつもの見慣れた町の風景であった。


  「…。」「…。」「…。」


    押し黙る三人。その横にいつのまに来たのか。

  「ほっほ、いやなに、やはり都会には広い公園を作るだけの土地が無くての。
   入り口付近は、なんとか森のように作ることができたんじゃが、それから少し行けば、もう道に木を植えて、縦長に作るしかなかったんじゃよ。
   だから、少し横にそれれば、普通に出られる。
   しかし、入ってみて分かったが、そうしておいてよかったかもしれんの。
   もっと広く作っておったら、建築者のわしでも外に出られんかったかもしれん。ほっほっほ、けっかおーらいじゃ。やっぱり作るときは…」


  普段ならここで「人騒がせなもんつくるんじゃねーーー!」と叫んでいる三人であるが、もうそんな気力は言わずもがな残っていない…。

  それどころか、まだ話をしようとする老人にギョッとした三人は、とにかく、帰ります、と老人に告げ、町並みに一歩踏み出そうとしたのだが。

  「おーい、ちょっと待ってくれ。」

  とまだ呼び止める老人。
  そこで三人が「今度は何だよ」的な視線を送ると。

  「そこの角を曲がるとバスが出ておるから、それで帰るといいじゃろ。」

  と、最後の最後に役に立つ情報をくれた老人であったが、三人は「どうも…。」と一言だけ残し、ぐったりしながらバス停に向かっていった。




  「一体なんだったんでしょうね…。あの老人…。」
  「結局愛犬の自慢と、愛犬のためにあの公園を作ったってことしか言ってなかったよな…。」
  「あれ…。あそこって「都会にもっと自然を」がテーマじゃなかったでしたっけ…。」
  「銀ちゃん、お腹すいたアル…。」
  「俺だって、腹へったよ…。」
  「もうここ隣の隣の町ですよ…。僕たち随分歩いたみたいですね…。」
  「定春結局どこいっちまったんだろうなぁ…。」




   あれからすぐにやって来たバスに揺られながら、銀時たちは自分たちの家に帰っていった。
  そして帰ってきた銀時たちを迎えたのは、なにも考えずにぽけーっと床でごろ寝していた定春であったのだった。
  どうやら自力で帰ってきたらしい。

     その定春に八つ当たり気味にボディタックルを銀時たちがかましたのは、言うまでもない。





   ちなみに、その日から一昨日の夜、隣の隣の町で、「都会にもっと自然を!」をテーマとした公園の建築作業中、建築者の老人が愛犬と一緒に様子を見に来たところ、
  あやまって作業中の事故にあって亡くなり、公園の建築作業がそのときから中止になっていたことを銀時たちが知るのは、もう少し先のお話。







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